ゆる〜く「世界でいちばん透きとおった物語」紹介・感想


こんにちは、ちのーどです。

どんでん返しもののミステリー小説や恋愛小説が好物で、
最近は、Instagramや他のブログでよく紹介されている小説に手を出しています。

今回は、淡くて美しいミステリー小説である**「世界でいちばん透きとおった物語」(著:杉井光)**を紹介しようと思います。
(※短め、ささっと紹介です)

この小説は、題名どおり美しく洗練された文章を味わいながらも、一人の作家を纏う謎に迫る緊張感を主人公と共に味わうことができます。

まだ読んだことのない方は、ぜひ文庫本を手に取って読んでみてください。
自身で読むことに大変意義を感じさせられます。

本の概要

作品名:世界でいちばん透きとおった物語(せかいでいちばんすきとおったものがたり)
著者名:杉井光(すぎい ひかる)
出版社:新潮文庫
発行日:2023年4月26日

こちらは、杉井光さんが手がけたミステリー作品です。
「第5回ほんタメ文学賞」たくみ部門大賞受賞作品です。

杉井光さんといえば、「神様のメモ帳」といったライトノベル作品のイメージがありましたが、
ミステリー小説も手かげていたということで、その多彩さに驚きました
(2007年ぐらい)

大御所ミステリ作家の宮内彰吾が死去した。宮内は妻帯者ながら多くの女性と交際し、そのうちの一人と子供までつくっていた。それが僕だ。「親父が『世界でいちばん透きとおった物語』という小説を死ぬ間際に書いていたらしい。何か知らないか」宮内の長男からの連絡をきっかけに始まった遺稿探し。編集者の霧子さんの助言をもとに調べるのだが――。予測不能の結末が待つ、衝撃の物語。

https://www.shinchosha.co.jp/book/180262/

この小説は、有名な作家の息子が主人公です。
しかし彼自身は不貞の子であり、著名な作家である父親とは会ったこともありません。
そして正真正銘の長男から連絡があり、父親にまつわる出来事に巻き込まれていきます。

この宮内彰吾という作家は、大変好色家で妻帯者ながら多くの女性と不倫をしています。
この不倫という言葉と「透きとおる」という題がミスマッチに思えますが、
読めば読むほど「透きとおる」という言葉が身に染みていきます…!
その感覚が実にたまりません…!!

感想(ネタバレなし)

この小説は、現代を舞台にしていることもありかなり読みやすい作品でした。
主人公も高校生であることから、若年層の方にとっては感情移入しやすいと思いました。
(昔のミステリー小説ばかり読んでいると、スマートフォンが出てくるだけで少し驚いてしまいます…。)

しかし、この小説が読みやすい理由としては、それだけではないと感じました。
まず文章がかなり丁寧で洗練化されているのかなと感じました。
難しい言い回しもそれほど多くなく、著者の方がライトノベル作家ということもあるのか、
ライトノベルを読むようにさらっと身体にテキストが染み込んできます。

そもそもこの小説の一番の売りである、テキストに埋め込まれた著者の一工夫、
努力というのが文章を読みやすくしているのだなと、普通に実感してしまいました。
(この辺りは、霧島さんが語る文章、校正の話のが身に染みました。もう少しこの辺りも勉強してみたいとしみじみ)

また、文章だけでなくお話自体も淡く繊細でこれだけで透き通っています。
先ほど触れた、不倫が透明にミスマッチだという話はもちろんあるのですが、
作家との不倫によって生まれた、僕とその母。

母はいわゆるシングルマザーでありながらも身一つで僕を育て、
僕と本を挟んだ世界で二人で暮らしている世界は、あたたかく繊細なひとときを
読者にも与えてくれます。

僕も、母親のことを悪いと思う描写も特になく(というかかなり好き?)
僕と母との絶妙な距離感の日常は落ち着き、それだけでも読んでいて幸せな気持ちになれました。
(僕と母、霧子さんとの関係も実に素敵…)

突然、父親側の正真正銘の長男から連絡があり、遺稿探しが始まることで
小説内の雰囲気は一変しますが、こちらもミステリー好きにはたまらないですね。
謎がどんどんと真実に近づいていく様子は、ワクワクが止まらない…!!

また、小説内で他の書籍や著者について触れてあることがあり、
知っている小説だとニヤッときてしまいます。

**こちらの小説なんと、2が出ているらしいです。
**(えぇ!?この終わりから一体どう繋いでいくんだ…!?)
私自身もまだ未読ですが、また次回追ってみたいと考えています。

リンク

お勉強

まず私自身、言葉の知識があまりないため、
今回出てきたワードを調べてました。ぜひご活用ください。

難しめのワード & 興味をもったワードをピックアップしてみました。

ワードリスト

  • 才媛(さいえん)

  • 判然(はんぜん)

  • おくび

  • ゲラ刷り

  • 衍字(えんじ)

  • ホスピス

  • 文壇(ぶんだん)

  • 外連味(けれんみ)

  • 度しがたい

  • インデザイン

  • カササギ殺人事件

  • くだり(件)

  • 鬱ぎこむ

以下の言葉の定義・例文は、全て Wiktionary(CC BY-SA 3.0)からの引用または要約です。

才媛…才能のある女性。高い教養のある女性。

判然…はっきりとよくわかること。

おくび…胃の中にたまったガスが口から排出される現象。
→おくびにも出さない…思っていることを、他人に少しも気取られない様子。

ゲラ刷り…校正をするために、仮に印刷した印刷物。校正されることを前提とした、仮の印刷物。

衍字…誤って付け加えられてしまった余分な字。冗字。

ホスピス…癌の末期患者に対し、単なる延命治療ではなく、身体的、精神的な苦痛を軽減しながら患者の末期を平穏にすごせるような治療をする施設やその活動。

文壇…作家など文学者の社会。

外連味…大衆受けを狙った派手なはったり。

度しがたい↔︎度する (どする)…納得させる。救う。

インデザイン…Adobe社が開発・提供するDTPソフト「Adobe InDesign」。
「DTP」とは、Desk Top Publishingの略で、雑誌やパンフレットなど紙媒体の原稿作成やデザインなどをパソコン上で行うことを指す。
(そうなん…?)

カササギ殺人事件…イギリスの作家アンソニー・ホロヴィッツによる推理小説。この作品は、ミステリー作家の殺人事件を題材に、劇中劇の形式をとった二重構造、アガサ・クリスティへのオマージュ作品。
興味深い、ぜひ読んでみたい…!

リンク

くだり…(くだん) 前に述べたこと。くだり。

鬱ぎこむ…「塞ぎこむ」、と同じらしい

個人的な感想(※ネタバレ含む)

※以下には作品の内容・結末に関わる重大なネタバレが含まれています。未読の方はご注意ください。

個人的に心に残ったのは、
ホスピスで主人公が目にしたものでした。

末期患者の方は長くいることができないので、油彩画ではなく水彩画を描くというのは
私自身そういう視点で考えたことがなかったので、目から鱗でした。

説明がなくても、パッとこの認識ができるように是非ともなりたいです…。

ちなみに、水彩画はその日中に完成することもできますが、
油彩画の場合、絵の具を上から厚塗りした際に乾かす時間が必要で何日もかかるようです。
(長いと一年ぐらいかかる…!?)

また、そしてこの作品のイチオシポイントとしては、
やはり文章レイアウトの美しさですね…!

洗練されているから、読みやすいのかなと思っていましたが、
まさかそこに工夫が凝らされているとは思いませんでした。

個人的にビビッときたのは、霧子さんが僕に遺稿の全容について教えてくれるなか、
特に京極先生の文章について語っているシーンです。

「京極先生は、言葉がページを跨ぐことを嫌がる。」ということを霧子さんが教えてくれるのですが、
この辺で読者は、

「んん!?」

これ、今読んでいる本もそうなってないか!?

だから読みやすかったのか。
という風に気づきはじめます。(私が気づいたのはこのタイミングでした、平均ぐらいでしょうか…?)

そして、宮内先生がしたかったことに繋がっていく…

くぅ、透きとおってますね!!!
(個人的には、宮内先生のことは許せないです。お金の援助も重要ですが、心の援助不足では…
もう少しサポートしたれよという気持ちです。母ちゃんも内緒にしすぎちゃうか…!?)

全てのことを理解した後にみる

「     」

は気持ち良いですね。
鳥肌もんです。

タタ、主人公の目といい、伏線回収はしっかりあり、
ミステリー小説としての緊張感、ワクワク感も得られて、

透明度⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️です。(満足。)

まとめ

繊細で洗礼された表現の中によって生み出される
淡いあたたかさと共存するミステリーが実に面白い!

書籍による新しい挑戦を感じられて、
小説の外から呼びかけられる新しい体験を
楽しむことができました。

ここまで読んでいただきありがとうございました!