ゆる~く、「火車」でお勉強・ネタバレ感想
こんにちは、ちのーどです。
どんでん返しもののミステリー小説や恋愛小説が好物で、
最近は、Instagramや他のブログでよく紹介されている小説に手を出しています。
今回は、ミステリー小説として有名な**「火車(かしゃ)」(著:宮部みゆき)**を紹介しようと思います。
このお話しは、1990年代の日本の金融事情をも題材とした、運命から逃れられない女性の切ない物語です。
主人公の追いかけている女性には一体何があったのか、主人公と共にぜひ、追いかけてみてください!!
本の概要
作品名:火車(かしゃ)
著者名:宮部みゆき(みやべみゆき)
出版社:新潮文庫
発行日:1992年7月15日
こちらは、宮部みゆきさんが手掛けたミステリー作品であり、
第108回直木三十五賞候補、第6回山本周五郎賞受賞作品です。
休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか? いったい彼女は何者なのか? 謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。
このお話は1992年に刊行されており、
時代設定もその当時に近いため、現在読むとかなり時代の古さを感じます。
サラーリマン金融やカード破産などの消費者金融の問題に焦点を当てており、
私自身かなりその当時のことを理解するのに、勉強になりました。
その当時の金融問題について知るために、読んでみるのもアリだと思うくらい、
詳しくわかりやすく説明がされています。
今回出てきた用語や背景については、「お勉強」の項でまとめていますので、
サラ金についてなどあまり理解できなかった方は、ぜひ参考にしてみてください。
感想(ネタバレなし)
今回概要の通り、関根彰子という女性を中心にストーリーが展開されていきます。
彼女は様々な問題を抱えており、その問題の原因は本当に彼女のせいなのか、
その時代や世の中の仕組みのせいなのではないだろうか
といった、私たち自身に問いかけてくる部分が出てきます。
彼女自身が抱える悩みは、現在の私たちに通じるものもあり、
特に女性読者には共感する部分も多く、深く考えさせられました。
そして、実に切ない物語でした。
電車の中で、号泣してしまいそうな程には心が揺さぶられました。
このお話を読んで、**「祈りの幕が下りる時」(著:東野圭吾)**を思い出しました。
家族が絡んでくるお話しは、中々心にくるものがあります…。
ミステリーの構成などは異なりますが、家族愛からくる切なさ、やるせなさを感じたい方は
ぜひこちらの作品も読んでみてください。
リンク
Amazon Primeで、阿部寛さん主演の映像化作品も見られますので、
ぜひこちらもご覧ください。
また、この作品は宮部みゆきさんの中でも代表作の一つとして知られていますが、
その理由として、構成の仕方が独特であることが挙げられます。
この作品の中で終始徹底されているのが、犯人の描き方なんですよね。
多くの小説は、犯人の供述や実際の犯行現場が描かれることも多いのですが、
今回に至っては、ひたすら主人公の聞き込みが行われ、
主人公の主観的な描写が一部始終を占めます。
口コミを見てみると、この作品の締め方は賛否両論あるようです。
しかし、構成の観点からみると多くの方が絶賛しています。
私自身、最後の締め方だけはあまり好きなものではありませんでしたが、
その構成の観点から見てみると非常に美しく、納得のいくものになっていると感じました。
Amazonのレビュー評価や、Yahoo知恵袋では他の方の興味深い講評があり、
そちらも読み終わったあとにみると補足として楽しめると感じました。
お勉強
まず私自身、歴史や金融事情について強くないため、
今回出てきたワードを調べてました。ぜひご活用ください。
ワードリスト
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サラリーマン金融
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自己破産
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官報
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雇用保険
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社会保険
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ファクシミリ
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サラ金規制法
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相続税対策アパート
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といち金融
サラーリマン金融(消費者金融、サラ金)…1970年代頃には高い金利を特徴とし、過剰な融資や取り立てによる多重債務者が急増した。2010年には貸金業法が改正され、それ以前のような取り立てはできなくなった。
自己破産…債務者が経済的に破綻して借金を返済できなくなった場合、裁判所の許可を得てすべての借金を免除してもらう手続き。自己破産には借金の金額は関係ない。
メリット:全ての返済義務がなくなる。債権者は財産の差し押さえができなくなる。自己破産が家族の信用に影響を及ぼさない。
デメリット:金融機関のブラックリストに載り、約5〜10年間借入ができなくなる。免責が確定するまで職業に制限がかかり、官報に載る。保証人に迷惑がかかる。
官報…憲法改正や法律など国が発行しているもの。法律などは官報に掲載されて初めて公布されたことになる。一般の人も見ることができる。
雇用保険…労働保険の一つで、主に失業した人の生活を保障するための給付を行う。労働者を雇用する事業所には強制的に適用される。
社会保険…健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5つの保険の総称。雇用保険と労災保険は、まとめて労働保険と呼ぶ。
ファクシミリ…FAX📠
(全称を知りませんでした。)
サラ金規制法…〈貸金業の規制等に関する法律〉と〈出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)〉の一部改正法が変わった、上限がそれまで事実上年利109.5%だったのが,最終的に40.004%引き下げられ,取立てに関しては威圧的な取立てや深夜の取立てが規制された。(貸金業法の改正)
相続税対策アパート…アパート経営は相続対策の一つとして選ばれている。自由にできる土地よりも、貸家建付地としての方が、土地にかかる相続税の評価額を下げられる。
(などなど、利点があるようです。)
といち金融…借入金利が「10日で1割の金利」の略で、年率365%の金利のこと。
(やばすぎる)
参考資料
“サラ金とは?ヤミ金との違いは?やばい取り立てがある?”, 債務整理相談ナビ, https://www.cieloazul.co.jp/saimu/faq/sarakin/, (参照2024-12-9)
“自己破産とは?メリット・デメリットや費用、方法をわかりやすく解説”, M&A総合研究所, https://mastory.jp/%E8%87%AA%E5%B7%B1%E7%A0%B4%E7%94%A3, (参照2024-12-9)
“官報とは”, 東京都官報販売所,
https://www.tokyo-kansho.co.jp/asp/kanpo/read/, (参照2024-12-9)
“雇用保険について知りたい”, 生命保険文化センター,
https://www.jili.or.jp/lifeplan/houseeconomy/1038.html, (参照2024-12-9)
“社会保険と雇用保険の違いは?内容や加入条件の違いについてわかりやすく解説”, freee,
https://www.freee.co.jp/kb/kb-payroll/the-defference-on-social-insurance-and-employment-insurance/, (参照2024-12-9)
“サラ金規制法”, コトバンク,
https://kotobank.jp/word/%E3%81%95%E3%82%89%E9%87%91%E8%A6%8F%E5%88%B6%E6%B3%95-3211377, (参照2025-01-03)
“賃貸アパートが相続対策になる理由は?実際の数字でシミュレーション”, 大東建託,
https://www.kentaku.co.jp/estate/navi/column02/post_400.html, (参照2025-01-03)
“トイチ(といち)”, アース司法書士事務所,
https://www.earth-shiho.com/word/ta11.html, (参照2025-01-03)
構成図まとめ(※ネタバレ含む)
※以下には作品の内容・結末に関わる重大なネタバレが含まれています。未読の方はご注意ください。
今回は刑事である主人公目線ということもあり、多くの情報が流れ込んできます。
私自身も、年月や人間関係があやふやになってしまったため、
事件が起こった流れや人間関係図をまとめてみようと思います。
まず、人間関係相関図を作成してみました。

かなり簡素ですが、参考人との関係性は分かりやすくなったと思います。
後半になってくると、主人公の聞き込みの量が増え、参考人の関係性が複雑でした。
次に、出来事を年表一覧にしてみました。
| 年月 | 新城 喬子の出来事 | 関根 彰子の出来事 | その他の出来事 |
|---|---|---|---|
| 1983年春 | 福島から家族で夜逃げ | ||
| 1983年3月 | 葛西通商に就職 | ||
| 1983年4月1日 | 東京の葛西通商の寮に住み出す | ||
| 1983年9月 | クレジットカードを取得 | ||
| 1984年 | 母と父が東京の親戚に訪ねた際、郡山の取り立てに捕まる | 葛西通商の寮を出て、キャッスル錦糸町に移転 | |
| 1985年 | 母が逃げ出し、名古屋市内で再会 | ||
| 1985年4月 | 新宿にあるスナック、ゴールドでアルバイトを始める | ||
| 1986年 | 母が肺炎を起こし死亡 | 風邪を拗らせ、10日間入院 | |
| 1987年1月 | 取り立てが激しくなり、葛西通商を退職 | ||
| 1987年 | 伊勢に移り、半年後父から電話 | 溝口法律事務所を訪れる | |
| 1987年5月 | 破産を申し立てる キャッスルマンションを出て、ゴールドの同僚、宮城 美恵の家に寄宿 | ||
| 1987年6月 | 倉田 康司と結婚 | ||
| 1987年9月 | 離婚 | ||
| 〜 | 暴力団に追われ、売られる | ||
| 1988年2月 | 暴力団のもとから逃げ出し、須藤 薫と離婚後初めて再会 | 免責が決定 ゴールドをやめ、新橋にあるライハナに移る 埼玉県のコーポ川口に転居 | |
| 1988年4月20日 | ローズラインに就職 | ||
| 1988年5月 | 片瀬にデータの持ち出しを頼む | ||
| 〜(1988年7月25日) | 関根のデータが登録される | ||
| 1988年8月 | この時までに片瀬によるデータの持ち出しが4回行われる | ||
| 1989年9月9日、10日 | ローズラインの女子社員研修 | ||
| 1989年11月18日 | ローズラインを休暇病欠 | ||
| 1989年11月19日 | 火傷を負って、須藤 薫を訪ねる 入院 | 木村 こずえの姉が火事に巻き込まれる | |
| 〜(1989年11月25日) | 母親が宇都宮で事故死 | ||
| 1989年11月26日 | 退院 | ||
| 1989年12月31日 | ローズラインを退職 | ||
| 1990年1月14日 | 本多 保の母に川口で目撃される | ||
| 1990年1月25日 | 母親の保険金について溝口法律事務所を訪れる | ||
| 以下、新城 喬子による関根 彰子の活動 | |||
| 1990年3月17日 | コーポ川口に荷物と書き残しを置いて消える | ||
| 1990年春 | 関根 彰子の通っていた学校に現れる | 東京の方南町に住みはじめる | |
| 1990年4月1日 | 関根 彰子の戸籍謄本が分籍される | ||
| 1990年4月7日 | 野村 一恵に関根 彰子の卒業アルバムが届く | ||
| 1990年4月15日 | - | 今井事務機に就職 | |
| 1990年4月20日 | 今井事務機で雇用保険に加入 | ||
| 1990年5月5日 | - | 山梨県韮崎の墓地でバラバラ遺体が発見される | |
| 1990年9月 | 栗坂 和也と付き合い始める | ||
| 1991年12月24日 | 栗坂 和也と形式上の婚約 | ||
| 1992年1月13日 | 栗坂 和也に関根 彰子のクレジットカードが作れないことの知らせが届く | ||
| 1992年1月15日 | 栗坂 和也が関根 彰子に上記の件を尋ねる | ||
| 1992年1月16日 | 姿を消す | ||
| 1992年1月17日 | 栗坂 和也が今井事務機を訪ねる | ||
| 1992年1月20日 | 栗坂 和也が本間 俊介を訪ねてくる 捜査開始 |
出来事年表
ネタバレ感想
この小説、約700ページあるのですが、なんとその量も感じさせないほど
スラスラと読めてしまいました。
このようなミステリー小説の場合、前半はただ調査を行うだけで
そこまで盛り上がらず後半のどんでん返しのために読むということも多いのですが、
この作品の場合、主人公とともに関根彰子の姿を追っていくのが、非常にスリリングで
固唾を呑みながら読むこと間違いなしです。
個人的に面白く感じたポイントを下記にまとめてみました。
一つ一つ綴っていきます。
ポイント
-
事件の流れが変わる瞬間
-
溝口弁護士の話
-
倉田の話
-
喬子の生物嫌い
-
彰子殺しについて
①事件の流れが変わる瞬間
今回、明確に事件の流れが変わる瞬間があります。
この瞬間にこの小説は、間違いなく面白いと感じました。
「この女性は、私の知っている関根彰子さんではありません。…(中略)…別人です。あなたは別人の話をしている。」
著者名:宮部みゆき、著作物名:火車、出版社名:新潮文庫、掲載ページ:p104
**この一文から物語の流れが変わります。
**ただの失踪事件じゃない、これは思っているよりも大きな事件かもしれないって。
ここから、読むのがどんどん楽しみになっていきます、一体彼女には何があったんだろうと…。
②溝口弁護士の話
彼の話はもちろん、事務所の澤木との「彰子の名前に関する掛け合い」もクスッとなり楽しめます。
あまり、当時の経済について私自身詳しくありませんでしたが、溝口弁護士が丁寧に一つ一つ当時の状況や借金する彼らの心情など説明してくれるので、これらを理解することだより物語に深みが出たと思います。(そして勉強になった)
これに関しては、「お勉強」の項で述べたとおりです。
③倉田の話
そして今回、誰もが心奪われたと思うのが、彼のお話だと思います。
今まで追いかけてきた彼女の背景が分かる瞬間、切なさとやるせなさが被さります。
冒頭で述べたとおり、**「祈りの幕が下りる時」**と同じ感情を抱いたのは、この部分を読んだ時です。
父や母が喬子を、必死になって守ろうとするが…。言わずもがな場面ですね…。
また、特に心に残ったのは、死に物狂いで父の死を祈る喬子です。
どうかお願い。頼むから死んでいてちょうだい、お父さん。
著者名:宮部みゆき、著作物名:火車、出版社名:新潮文庫、掲載ページ:p539
この彼女の姿を見た、倉田を責められるものではありません。
現実のカップルや夫婦生活においてでさえ、
初めて見る一面やささいなきっかけで心が離れることなんてざらにあります。
裕福な家庭の中にいる倉田や和也では、
喬子とともに運命を歩む道は決してあり得ないことだったのでしょう。
また本間は、喬子を追いかけることが本当に正しいのか、この辺りから疑問に思い始めます。
私も本間と同様、もう彼女を追いかけないほうがこんな辛い目にあった彼女への思いやりだ、とさえ感じました。(殺人が絡んでいるかもしれない以上やめることはできませんが)
結局、彼女自身過去に至っては全く悪くないんですよね、そればかりか頑張り過ぎなぐらい。
もとはと言えば、
お父さんが時代の流れに乗ってマイホームを建て借金してしまったことが事の発端ですからね、
もしくは彼女が美人でなければこのようなことにもならなかったのかもしれません…
(彼女が借金取りに気に入られてしまったことも原因の一つ)
そして、倉田の話を聞く限り、生き延びる知恵がついても喬子の優しさを節々と感じます。
そのためこの時点では、私は喬子が殺人をしたことを信じることができませんでした。
しかし、取り立てに捕まったことで、彼女の中で何かが欠けてしまった。
次のポイントとして述べようと思います。
④喬子の生物嫌い
喬子の友人の話によると、彼女は捕まったあとから生物(なまもの)が嫌いになったという話がありました。
私はこの時点で、「喬子による彰子の殺人が行われたことで、生物が嫌いになった」と考えましたが、
時系列を考えるとそうではないことがわかります。
時系列から、喬子が捕まったときに、何かきっかけがあったと考えられます。
彼女が追い人から逃げ出してきたことを考えると、
**誰かを殺した、もしくは他者による殺しをその時見たのではないかと思います。
**そこから、殺人のためらいが消えてしまい、木村こずえ姉の殺人未遂にまで繋がったと思いました。
友人の元へ逃げ出してきた喬子と、倉田が語る喬子では、覚悟が違うのでしょう。
⑤彰子殺しについて
終盤まで私は彰子が喬子によって殺されていないと考えており、
実は生きているのでは?と疑っていました。
(どんでん返し系だと主人公の考えと異なることも多く、倉田が語る喬子像を願っていたため)
保が卒業アルバムで彰子が殺されたと納得したときに、
ようやく私自身も彼女が喬子によって殺されたのだと確信しました。
喬子自身は悪くないと思いたいがあまりに、この事実は受け止めにくかったですが、
彰子が自己破産をしてしまったと同様に、本人だけが責められるものではなく、
社会の流れがこの事件の一端を担っていると溝口弁護士の言っていたことが深く感じられました。
少し物足りなかったのが、この作品の良さでもある客観性が足りないところです。
結局、彰子殺しの手段や証拠というものは確定でこれというものがないため、
若干本当に行われたのかという不信感を抱えました。
そして最後も犯人の口から真実が語られることはないため、
この事件の一部始終は本間の憶測でしかありません。
・まとめ
この作品を読んだ後というのは不思議な感覚に陥りました。
まるで全てまやかしだったんじゃないかと…。
賛否両論あると思いますが、私にとっては素晴らしい作品でした。
もう一度、読み返そうと思います。
読んでいただきありがとうございました!